導入詳細
経緯セキュリティー強化と利便性の向上を両立する教育ネットワークを検討

教育長 二見 隆久氏
朝霞市教育大綱では基本理念として「心豊かに 生きる力をはぐくむ 朝霞の教育」を掲げる。「この基本理念をいかに具現化するか。児童・生徒が学びやすい環境づくりに向けてICTを含め、適切な整備を行うことが私たちの使命です」と教育長の二見隆久氏は強調する。
朝霞市教育委員会のICT環境は、かつて各学校が独自にオンプレミスのサーバーを設置し運用してきたが、2017年のシステム更改でセンターサーバー方式に変更。各学校の教職員は、センターサーバーに閉域網でアクセスしながら校務や業務を行ってきた経緯がある。
その後、2020年度にスタートしたGIGAスクール構想に基づき、児童・生徒に1人1台のタブレット端末が配布された。学習面でICTの活用が進む一方、校務DXをどのように進めていくかが課題になっていた。「コロナ禍の影響でリモートワークが普及する一方で、教職員は学校でしか仕事ができないことが負担になっていました。やむを得ず自宅で仕事をする際にはUSBメモリーに情報を保存して持ち出していましたが、紛失のリスクがあります。教員の働き方を変えるには、根本的に仕組みを変える必要があり、クラウド化したいと考えていました。クラウドであれば自宅でも学校と同じように仕事が行えます」(二見氏)。

学校教育部
教育総務課
学校管理係長 岡田 章宏氏
そこで教育委員会ではセンターサーバーの更改を機に、次期システムについて検討を開始。「大きな問題だったのがセキュリティーです。従来のシステムでは、小中学校のセキュリティー対策として必ずしも十分なものとは言えませんでした」と学校教育部 教育総務課 学校管理係長の岡田章宏氏は打ち明ける。
セキュリティーの強化だけでなく、利便性を高める必要もあった。「次期システムは、リモートワークが行えるICT環境の提供など、使い勝手のよいシステムであることが大前提です。そこでセキュリティーの強化と利便性の向上をテーマに、ユニアデックスをはじめ数社のIT事業者と検討を開始しました」(岡田氏)
プロセス教員の働き方改革や教育の質の向上、保護者との連携強化などに役立つ提案

学校教育部
教育指導課
指導主事 遊馬 嘉和氏
IT事業者との検討には、岡田氏のほか、学校教育部 教育指導課の指導主事である遊馬嘉和氏と上野宏朗氏、朝霞市役所 デジタル推進課の職員が参加した。文部科学省の指針に沿ったフルクラウド、ゼロトラストを導入したいが、予算的な制約もある。ただ、初期投資はかかるものの「クラウドであれば今後5年以上は使い続けられることや、児童・生徒の学びやすい環境づくりに役立つことなどを説明し、市役所の関係部署から理解を得られました」と岡田氏は振り返る。
遊馬氏は、クラウド型の保護者連絡ツールの意義について各学校の教職員に説明。「これまで病欠の連絡方法は学校によってまちまちでした。プリントのやり取りをなくし、連絡方法を市内の各学校が統一することにより、学校だけではなく保護者や児童・生徒にもメリットがあることを話しました。また、学習AIドリルの導入により、さらに良い学びの機会を提供できることも伝えました」(遊馬氏)

学校教育部
教育指導課
指導主事 上野 宏朗氏
教育委員会に異動するまで、小学校で教員を務めていた上野氏は「教員の長時間勤務をいかに改善するかが大きな課題でした。教員は教材研究など授業のための準備だけでなく、会議や保護者との連絡に多くの時間を割いています。より効率的で柔軟に仕事ができるようになればと、学校現場にいるときから考えていました」と話す。
理想の教育ネットワークに向けて検討を続けた結果「ICTを活用して教職員の働く環境を改善する」という方針が決まった。これによって子どもたちと向き合う時間を増やし、教育活動をより充実させられるように支援していくことを掲げた。
この方針を受け、ユニアデックスからは3つの軸が提示された。1つ目は教職員の事務作業など業務にかかる手間や負担を軽減する「業務効率化と働き方改革」、2つ目は子ども一人ひとりへの指導の充実や個別最適化学習により確かな学力向上を目指す「教育の質のさらなる向上」、3つ目は学校間や保護者との連絡・コミュニケーションを効率化する「学校・家庭との連携」である。
これらを実現するため、統合型校務支援システムや保護者連絡システム、学習AIドリルなどのクラウドサービスの導入に加え、そのサービスを安全・便利に利用するためのネットワークやセキュリティー要素が提案された。それは、ゼロトラストモデルを実現するための仕組みである「SASE(Secure Access Service Edge)」でのアクセス制御を中心に、リモートアクセス、多要素認証、Webフィルタリング、EDR(Endpoint Detection and Response)など、朝霞市が目指す教育ネットワークに必要なものが十分に盛り込まれたものだった。
ゼロトラストモデルを採用した教育委員会は全国的にも少なく、参考にできる事例に乏しい。この構想を具体化するには、他自治体の事例によらないゼロベースの検討が必要だった。「ユニアデックスとは頻繁に打ち合わせを行い、教育委員会でやりたいことに沿って、具体化に向けた議論ができました。教育ネットワークの複雑な仕組みを教員、職員にも分かりやすく伝えてくれました」(岡田氏)

効果・今後デジタルの力でリアルな学びを支える。知見の豊富なユニアデックスの助言に期待
2024年4月から要件定義や基本設計、詳細設計、構築・移行作業、試験などを経て、9月から運用を始めることが決まった。この短期間のうちに、オンプレミスのサーバーで保管していたデータをクラウド(Microsoft SharePoint Online)に移行する必要があった。「教職員によるデータの移行では、エラーの発生や、移行漏れの発生が懸念されました。ユニアデックスからはエラー発生時の対応方法のレクチャーや、システム切り替え後に移行漏れが発覚した際に備えたバックアップの取得など、多様なサポートを受けられました」(上野氏)
PCへのログインには、ID、パスワードに加え顔認証も採用し、二要素認証を実装。「顔認証がうまくできないとログインできず、教職員のストレスになります。顔の向きなどが変わっても認証できるよう設定したほか、顔認証ができなかったときには、先生のタブレット端末を活用して認証する代替の仕組みも取り入れました。セキュリティーの強化を重視しつつ、できる限り教職員の利便性を損なわないよう考慮しています」(岡田氏)
運用は始まったばかりだが、「保護者連絡ツールは好評のようです。学校によって温度差はありますが、これから本格的に活用されるとみています。また、学習AIドリルについても、すでに活用している先生はテストの代わりにしたり、成績に反映し始めたりしています」(遊馬氏)。今後は各学校のICT推進リーダーの協力を得て、具体的な活用法を各学校で広めていくような取り組みを進める。
システム移行後はインターフェースが変わったこともあり、教職員からは多くの問い合わせが寄せられた。ユニアデックスではこれらの問い合わせに対して、ヘルプデスクを通じて迅速に対応。「必要があれば学校に訪問して対応いただいています。おかげで導入から比較的早いうちに問い合わせは落ち着きました。丁寧な対応に感謝しています」(岡田氏)
その後も教育委員会とユニアデックスは毎週、システム運用の定例会を実施。教職員からヘルプデスクへの問い合わせ内容の共有や、課題の対応状況の報告、クラウドサービスの機能追加などを話し合っている。クラウドサービスは随時新機能が追加されるため、ユニアデックスではこの新機能の利活用などを通じて「成長するシステム」を教育委員会とともに目指していく考えだ。
二見氏は「デジタルの力を借りながら、子どもたちが自分で問いを立て、課題を見つける探究的な学びをどのように進めていくか。そのために学校教育は何ができるのか。デジタルを使ってリアルな学びを支えていく、これは私の目標でもあります」と意欲を示す。「システムは導入して終わりではなく、いかに改善していくかが重要です。今後もITの豊富なアイデアを基に、的確なアドバイスを期待しています」(二見氏)
ユニアデックスでは、朝霞市とともに歩み、朝霞市の子どもたちと教職員が安全・安心な教育環境でより豊かな学びを体現できるよう、ICTの力を通じて支えていく。
2025年01月取材