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生成AIの活用でIT保守サポートの業務改革を推進
サポートエンジニアの負荷軽減に役立つ「サポートGAIチャット」を開発

#AI
高度なノウハウを有するベテラン技術者の高齢化に伴うリタイアは、大きな社会問題となっています。ユニアデックスでも人手不足・後継者不足を背景に、生成AIを活用したサポートエンジニア支援システム「サポートGAIチャット」を開発しています。当プロジェクトに長年関わってきたサービス技術戦略部 部長の池内 之彦と、サービス企画推進部 担当部長の藤田 勝貫が紹介します。

ベテラン技術者の退職が迫る中で高まる後継者育成への危機感

ユニアデックスのサポート業務とはどのようなものですか。また、サポートGAIチャットを立ち上げた背景にはどのような課題があったのか教えてください。

写真:池内

ユニアデックス株式会社
マネージドサービス開発本部 サービス技術戦略部
部長 池内 之彦

ユニアデックス 池内 之彦(以下、池内)ユニアデックスは、ワンストップでマルチベンダー製品のサポートを全国で提供しています。ハードウエア、ソフトウエア、ネットワークなど100種類以上の製品ポートフォリオがあり、お客さまからの問い合わせに対して技術質問への回答や障害対応に当たっています。 製品ごとに主管部署があるだけではなく、さらにそれぞれの領域のスペシャリストが対応する体制を敷いていますが、そうした要となる人材の高齢化が進んでおり、退職年齢が迫る中で後継者の育成が大きな課題となっています。スペシャリストの人材育成は、簡単にはできません。もちろん、サポート対象機器の製品情報や障害/TQ(Technical Query:技術的な質問)対応から得たナレッジ化も進めていますが、それだけでは経験を補えない部分がありました。

そうしたサポート業務へ、生成AIを活用しようとしたのはなぜでしょうか。

池内:AIを活用した課題解決は、実は5年ほど前から検討していました。当時、藤田がAIのサービス企画を行っており、同期ということもあって相談したのがきっかけです。「COE(Center of Excellence)サービス」というサポート製品全般にわたるサービスを提供しており、そこのシステム基盤に各サポート部門のナレッジが蓄積されるため、そのデータをAIに活用することで、サポート業務の効率化や品質の向上につながるのではないかと考えました。

写真:藤田

ユニアデックス株式会社
マネージドサービス推進本部 サービス企画推進部
担当部長/シニアデータサイエンティスト 藤田 勝貫

ユニアデックス 藤田 勝貫(以下、藤田)新しいサービス企画のテーマを探していた際に、ちょうど池内から相談があり、AIやデータを生かしたAIOps(Artificial Intelligence for IT Operations)のビジネスの課題やソリューションについての検討を行うことになりました。COEサービスで蓄積しているサポートに関する情報のデータベース化も進んでいたことから、スピード感を持って検討を開始できました。 ただ、当時は自然言語処理(NLP)をベースとした類似検索や機械学習によるマッチングでのアプローチでした。個別のシステム構成に合わせた脆弱性/不具合パッチ情報を抽出することから活動を開始して試行錯誤を重ねましたが、なかなか思うような成果は得られませんでした。そうした中、2022年11月のChatGPT登場で生成AIの活用へかじを切り、それまでは難易度が高かったナレッジ活用を軸に、サポートエンジニアの直接支援に取り組むことにしました。


サポートサービスから顧客に提供する回答案を生成AIで作成

現時点で実現している、サポートGAIチャットはどのようなシステムで、どのような機能を提供するのか、概要を教えてください。

池内:簡単に言えば、お客さまから問い合わせを受けた情報をプロンプトとして入力すると、サポートサービスで提供する回答案(ドラフト)を作成するシステムです。
従来、お客さまから問い合わせを受けたサポートエンジニアは、その内容を確認して必要なヒアリングを行い、足りない情報を補いながら調査を始めます。当該製品のベンダーのサイトを検索したり、社内の各サポート主管が提供するナレッジデータベースを検索したり、実機で現象を再現して検証したりするなど、さまざまな手順を経てお客さまへの回答を作成していました。
この調査工程がサポートGAIチャットを利用することで短縮されます。もちろん生成されたドラフトに対する人間によるレビューや修正は欠かせませんが、サポートエンジニアの大幅な工数削減につながります。

サポートGAIチャット導入前後の業務フローの比較

藤田:サポート業務で大原則となるのは「決して想像で回答してはならない」ことです。従って、サポートGAIチャットが生成するドラフト回答からもハルシネーションを排除する必要があります。具体的には、ベンダーの情報、マニュアル、過去の対応履歴など、根拠を持ったソースのみから正しい情報を探索します。また、サポートエンジニア自身がファクトチェックを行えるように、一次情報をたどれるリンクを用意しているのも特徴です。

サポートGAIチャットの画面例


従来4時間を要していたドラフト作成を4分程度に短縮

サポートGAIチャットを開発する上で、特に苦労した点や工夫した点について教えてください。

藤田:技術的な観点から述べると、ナレッジデータをAIで活用するために、RAG(検索拡張生成)の仕組みを採用しています。RAGに使用するデータは、サポートエンジニアが日常業務で利用しているマニュアルやFAQ、ベンダーからの脆弱性や不具合パッチの情報、COEサービスに蓄積されたデータなどです。しかし、そもそもデータが不足していたり、データ形式が整理されていなかったりして、うまく検索できないケースがありました。また、検索できたとしても、LLM(大規模言語モデル)プロンプトによっては的確な解決策につながらないこともありました。
そこで日々更新されるLLMに合わせてより適したモデルを使えるようにするため、実行するタスクやデータの機密度などにより、複数のLLM(ローカルLLMも含めたマルチLLM)を使えるようにしたり、LLMの入れ替えやそれに合わせたプロンプトの編集をしやすくしたりといった工夫を施しています。

池内:サポートGAIチャットにはまだまだ課題も多く道半ばではありますが、この開発を進めるに当たって、会社に認知してもらうまでにはさまざまな苦労がありました。社内サービスの効率化に寄与するのは明らかですが、どこまで効果があるかは開発してみないと明確な説明が難しかったためです。そこで技術戦略の1つとして、プロトタイプを作成し、その効果を理解してもらうことで開発を進められました。
また、ドラフト生成の基となるデータの整備・拡充には多くのサポートエンジニアの協力が不可欠であるため「サポート部門共通ナレッジ登録規約」というガイドラインを作成した上でサポート部門の代表者と合意を取り、組織的にデータの登録を促す新たなスキームを構築しています。このようにサポート部門にも協力してもらっているだけに、できるだけ早く「サポートエンジニアが楽になる」システムにしたいと考えています。

サポートGAIチャットからは、現在どのような効果が得られていますか。

藤田:残念ながら現段階では、ベテランのスペシャリストを代替できるレベルにはまだ達していません。
しかし、実際のサポート業務のフローにサポートGAIチャットを適用して比較検証を行ったところ、確認したユースケースの半分程度は、ほぼ解決策として回答することが可能であることが分かりました。調査工程を大幅に省略できる典型的なプロンプトは、従来4時間を要していたドラフト作成を4分程度に短縮するという、劇的な業務効率化の可能性を示した例もあります。
こうした点も評価され、サポートGAIチャットはIT協会(公益社団法人企業情報化協会)主催の「2025年度カスタマーサポート表彰制度」の奨励賞も受賞しました。


サポート分野以外への展開を図り、最終的には顧客へも公開

サポートGAIチャットの開発は、STEP1~3の段階に分かれていて、現在はSTEP1と伺っています。以降のSTEPへの展望を聞かせてください。

池内:STEP1は、社内のサポート部門での利用フェーズです。いわゆる「カスタマーゼロ」のフェーズで、まずは社内で徹底的に使い、品質を整えて業務利用できる形にすることが喫緊の目標となります。このハードルを越えない限り、STEP2以降の展開はあり得ません。
STEP2は、社内活用を拡大するフェーズです。STEP1は、サポート部門の利用に限定されていますが、将来的にはサポート分野以外のシステム構築や運用サービスにも拡大したいと考えています。現在、ユニアデックスで力を入れているマネージドサービスの「GASSAI」を支援するシステムとして連携することも構想しています。
最後のSTEP3で目指すのは、お客さまへのサービス公開です。サポートGAIチャットではなく、GASSAIの一部としてのサービス提供になるかもしれませんが、お客さまに直接システムを利用していただくことで、ユニアデックスのサポートサービスの新たなCX(顧客体験価値)を創出していきたいと考えています。

サポートGAIチャットの開発ロードマップ

サポートGAIチャットに限らず、ユニアデックスとして生成AIと今後どう向き合っていくのでしょうか。

藤田:生成AIは激しい開発競争が繰り広げられており、現在活用している技術や手法もすぐに陳腐化してしまう可能性があるため、常に最新の情報やテクノロジーのキャッチアップが必要です。そのため、今後も継続的な技術調査や評価を行いながら、社内はもとよりお客さまのビジネスにも貢献する利用技術を抽出していきたいと考えています。
また、生成AI活用のあり方も、当初考えていたベテランのスペシャリストを完全に置き換えるものではなく、現在いる人材の能力を補助して拡張するツールとして作用させる方向への転換を検討しています。この取り組みが、属人化したナレッジの形式知化の促進や、個々のエンジニアによる生成AI活用に関するリテラシー向上にもつながっています。
今後さらに加速していくAI時代に向けて、データとナレッジの蓄積を確実に進めていきます。

池内:私は、現在直面している課題を地道に一つ一つ克服していくことが将来への発展につながると考えています。サポートGAIチャットのユーザーをはじめ、企画・開発・運用担当者やハードウエア・ソフトウエア・ネットワークの利用部門など、多くの関係者の協力によってこのプロジェクトは支えられています。まずは、これらの関係者の期待に応える成果物を提供することが、プロジェクト推進の第一歩と捉えています。
その達成によって、さまざまな社内業務プロセスに変革がもたらされ効率化されると、よりお客さまに近いところに業務をシフトすることができ(カスタマーサクセス)、イノベーションの創出につながります。結果として、お客さまや社会が抱える課題の解決により多くの時間を費やすことが可能となり、多様な顧客課題の解決を通じて、ユニアデックスが掲げる「ほっとする社会の実現」に貢献できると考えています。